短編ストーリー わたしと歌

これは、ある女の子が書いた、短い作文です。

 
 

わたしは、歌が大好きです。歌を聞くのも大好きだけど、歌を歌うことは、もっと大好きです。なぜかというと、歌が大好きだからです。

 

毎日毎日、お父さんやお母さんの前で歌っています。ほめられたり、おこられたりしています。けれども、わたしは、歌が大好きなので、悲しい時もあるけれど、苦しい時もあるけれど、楽しい時もうれしい時もあるので、決してやめません。

 

けれども、わたしのほかにも歌が好きな子がいます。それは同級生の治くんです。

 

治くんは、転校生です。二学期に入って来た男の子で、わたしのとなりの席にいます。いつも鼻水たらして、ずるずる言って、とってもとっても汚いです。

 

着ている服もいっつもおんなじで、青いシャツに、青い半ズボン、がりがり頭で、ほそくてちっちゃくて、たまにほかの男の子たちに、臭い臭いと言われています。わたしも、おんなじように、臭い臭いと思っています。

 

その治くんが、わたしを助けてくれたことがあります。

 

わたしは、町ののど自慢大会に出て、一生懸命歌って、トロフィーをもらいました。学校に行く時も、学校から帰る時も、歌って歌って、ほいほいほい、と歩いています。

 

そうして、歌を歌いながら、学校から帰っていると、同級生の毅くんが、いきなり、後ろからわたしのランドセルをつかんで、生意気だ、トロフィー寄こせ、コノヤロー、と言いました。わたしは、怖くなって、ぶるぶる震えて、なんにも出来なくて、しょんぼりしていました。

 

そんな時、治くんが出て来て、毅くんのお腹に頭突きをしました。毅くんは、大きなまんまるい体のくせに、しりもちついて、わんわん泣きました。友だちの浩二くんや二郎くんは、くせえんだコノヤロー、と言って、逃げて行きました。

 

治くんは、そのまま帰りました。わたしは、治くんのあとをついていきました。治くんは、なんどもなんどもわたしを見ました。わたしは、下を見て、立ち止りました。

 

そうしていたら、治くんが、突然言いました。

 

「お前、歌好きなんだろ?」

 

わたしは、うん、と言いました。

 

「だったら、歌ってみろよ」

 

わたしは、困りました。わたしは、恥ずかしくなりました。わたしは、なんにも言えませんでした。

 

そうしたら、治くんが、歌い出しました。♪ベイビー、スニーカーぶる~す、と大きな声を出しました。

 

わたしはびっくりしました。とってもとってもびっくりしました。治くんは、とってもとっても歌が上手でした。

 

わたしは、うれしくなって歌いました。♪おもいで酒に~、と治くんに負けないように大きな声を出しました。

 

歌い終わると、治くんが言いました。

 

「お前、演歌だろ。これからはよ、アイドルの時代だぜ」

 

わたしは、ムカムカして、言いました。

 

「歌はだよ。お父さんやお母さんが言ってるもん」
「まだ親のスネかじりか。ガキだな」

 

自分もガキのくせに、と思いました。

 

けれども、それから、わたしは治くんと帰るようになりました。治くんは、♪バイバイ哀愁デイト~、♪ハッとして、グッときて~、と歌ったりしました。わたしは、♪帰ってこいよ~、♪雨雨降れ降れもっと降れ~、と歌ったりしました。ずっとずっと二人で歌っていました。

 

そうして、二学期がすぎて、お正月になって、冬休みが終わりました。いつものように歌いながら、学校に行くと、となりの席に治くんがいませんでした。翌日になっても、その翌日になっても、治くんは、来ませんでした。みんな理由がわからないようでした。

 

それから、ちょっとして、治くんの居所がわかりました。

 

治くんは、ずっと家にいました。お父さん、お母さん、お姉さんとずっといました。けれども、治くんは、動かなくなりました。お父さん、お母さん、お姉さんも動かなくなりました。

 

わたしのお母さんが、ほしょうにん、にげてきた、しゃっきんく、とか言っていました。わたしには、なんだかよくわかりませんでした。けれども、わたしにもわかることがありました。

 

治くんは、いなくなりました。

 

わたしは、いまでも、学校に行く時も帰る時も、歌っています。治くんとはもう歌えないけれど、わたしはずっと歌っています。これからも、もっともっともっともっと歌って、いつか、みんなを楽しませる亜矢になりたいです。

 

—– 了 —–

 

- この物語は、管理人のイメージに基づいた架空のものです。 -

 

 



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