ジャパニーズ・ソウルの本領 CDアルバム Singer

2010年10月6日に発売された、島津亜矢のCDアルバムについて、当サイトでも、何度かお話しています。いずれものにも、島津亜矢の持ち味があり、多くのファンは、どうして2010年の紅白に出られないのだろう、と思っているかもしれません。しかし、すでに時代は、紅白云々で、歌手のステータスが決まるようなものではないと思います。確かに、視聴率はいまだに高いのでしょうが、数字が質を表わしているかどうかは、定かではないでしょう。これは、テレビ番組に限らず、色々なことに当てはまると思います。もっとも、首相や大統領の支持率に関しては、なんとも言えませんが・・・。(^。^)

 

ともかく、実力のある歌手が、言ってしまえば、たかが大晦日の恒例行事云々で、その力量や名声を失うものではなく、島津亜矢にとっては、まさにその通りです。彼女の2010年のリサイタルDVDが、年明けに発売されますが、そのタイトル通り、島津亜矢にとって、今年(2010年)は、「挑戦」の一年だったのかもしれません。わたしは、本年(2010年)からのファンですが、これまでのアルバムなどを見る限り、そう感じます。大袈裟かもしれませんが、島津亜矢の「挑戦」の象徴とも言えるものが、まさに、今回お話する「Singer」にも表れているように思います。

 
 

このアルバムは、「BS日本のうた」で評判を読んだ「I Will Always Love You」から始まり、中島みゆき、スタンダード曲、ロック、歌謡曲などが盛り込まれ、まさに、島津亜矢が色々な歌に挑んでいる姿が凝縮されていると思います。以前にも、他のアルバムで収録されたことのある歌もあり、たとえば「飾りじゃないのよ涙は」は、「BS日本のうた」シリーズにも、収められています。

 

しかし、わたし個人としては、中島みゆきの曲を島津亜矢が歌う、ということで、注目していました。もっと言えば、中島みゆきの曲を歌うということだけで、2010年10月6日CDアルバム4枚同時発売の中で、一番の楽しみでした。結論から言えば、その期待に見事に応えてくれたと思います。もちろん、「Singer」について、???、というものもあります。たとえば、「見果てぬ夢」や「監獄ロック」については、少々違和感を覚えました。

 

島津亜矢に似合わない、というのではなく、もともと日本語の訳詞に対し、奇妙な感慨を抱いています。特に、「監獄ロック」については、元の歌詞が、それこそ、監獄を舞台にしていますが、どうもこの調子で、おいら云々というのは、違った意味で、絶望感を覚えました。(^。^) 「I Will Always Love You」を原語のまま歌っているのだから、「見果てぬ夢」や「監獄ロック」も、原語で挑戦して欲しかった、というのが、率直な思いです。しかし、詳細は忘れましたが、「見果てぬ夢」や「監獄ロック」と「I Will Always Love You」の最大の違いは、前者2曲がすでに、日本に定着したスタンダード洋楽と言えるものです。

 

時代の違いと言った方が適切かもしれませんが、日本に入って来た当時は、根づかせるためにも、訳詞を重視したのかもしれません。そういうことを考えると、これも致し方ないか、とも思っています。そうは言っても、これで、島津亜矢の「Singer」が、たいしたCDアルバムではない、とはならないでしょう。実は、期待していた中島みゆきの「地上の星」については、最初に聞いた時、「亜矢ちゃん、ちょっと力み過ぎでは?」と思いました。けれども、時間が経つにつれ、その力強さが、わたしと同じ世代でもある島津亜矢にとっては、もっともだ、と思うようになりました。

 

「地上の星」は、ご存知のように、NHK「プロジェクトX」のテーマソングです。21世紀当初にヒットし、今でも人気のある一曲と言えます。「プロジェクトX」の趣旨は、日本の高度成長期を支えた名もなき人たちのドキュメンタリーであり、敗戦で打ちひしがれても、未来に向かって日本の発展を夢見た人たちのドラマです。そこには、目に見えぬ力の源泉があると思います。

 

方々で、高度成長は、実は戦争世代が作ったもの、という個人的な見解を述べていますが、戦争で敗れた人たちが支えたのであれば、そこにエネルギーをほとばしらせるのは、当然とも言えます。「地上の星」は、まさにそういう人々を描いたドキュメンタリー用の一曲であり、おそらく、番組の趣旨を込めながら、作り上げられたのでしょう。また、「地上の星」の作り手である中島みゆき自身、70年代後半に音楽シーンに登場し、高度成長期に育ったとしても、作り上げた世代とはならないでしょう。こういうことから、高度成長を支えて来なかった人間が、高度成長を描こうと思えば、そのパワーを前面に出してしまうのも、致し方のないことです。

 

島津亜矢の「地上の星」を聞いた後、オリジナルにも、改めて耳を傾けてみました。中島みゆき自身、彼女なりに力強く歌っていました。必ずしも、オリジナルが全て良いものとは限りませんが、再び、島津亜矢の「地上の星」に戻り、何度か聞いているうち、納得する自分が現れ、そうして、自然と、ああこれもいいな、と思いを新たにしました。(^。^) けれども、このアルバムの中で、わたしが特におススメしたい一曲があります。「地上の星」と同様、中島みゆきの作詞作曲である、「紅灯の海」です。

 
 

「紅灯の海」は、1998年に発売された、中島みゆきのアルバム「わたしの子供になりなさい」に収録されています。当初は、竹中直人に提供されたものですが、セルフカバーとして、自身のアルバムに収めることとなりました。わたしは、海育ちではないですが、この歌の中で語られている海には、厳しさと優しさが同居し、海の雄大さを感じます。時もそうですが、自然というものは、人間に対抗しながらも、人間を産み出し、いわば、両極の性質があると思います。結局、それは、人間自体にも当てはまり、人工的なものにも、その特徴が見受けられます。

 

かつての日本には、そういう二極のものは、同一であり、常に同居しているものだ、との考えがあったようです。いわば、矛盾を受け入れることで、世の流れを乗り切ろうとする考えであったろうと思います。まさに海にはそういう面があり、もちろん、山においてもそうでしょう。海に囲まれながら、山も多い日本列島の居住民にとって、当然の選択肢とも言えます。

 

「紅灯の海」には、そういう矛盾の同居が、見事に盛り込まれていると思います。ある評論家によれば、中島みゆきの恋愛モノには、恋愛と自我の不条理さが見事に歌い上げられている、とのことですが、それは恋愛モノだけでなく、中島みゆきの歌全般に共通していることかもしれません。

 

 

そんな矛盾や不条理さなどを含んだ「紅灯の海」を、島津亜矢は、見事に自分のものにしていると思います。何度もお話しているように、彼女の歌声には、大地に繋がる「はは」を感じ、それはまさに、海を含んだ、自然の雄大さにも、通じると思います。ずしりとしながらも、優しげなその歌声によって、「紅灯の海」の哀しさ、静けさ、楽しさなどの矛盾や不条理などをすべて包み込んでくれる、そんな感じがします。しかし、その余韻は、歌そのもののテーマにもつながるのかもしれませんが、ただ単に、そのままであること、言い換えれば、「Let it be」であり、「ありのまま、なすがまま」のようにも感じます。

 
 

いずれにせよ、島津亜矢が、オールマイティな歌手であることに変わりはなく、中島みゆきの歌も、彼女らしく歌い上げ、懐の大きさを証明していると思います。それは何より、彼女の歌声に、魂が宿っているからなのかもしれません。「Singer」を聞き終わった後、わたしは、次のようにも思いました。

 

「やっぱり、島津亜矢は、ジャパニーズ・ソウル・シンガー!!」

 

当サイトの皆様への中で触れたことに戻ってしまいますが、論理と同じように、前提に戻って、一旦結論に至り、また前提に返って、結論を導き、そうして、それを繰り返し、少しずつ前進していくのでしょう。なお、「Singer」の中には、「紅灯の海」ばかりでなく、「さくら(独唱)」、「聖母たちのララバイ」、「昴~すばる~」等も収録され、いずれのものにも、島津亜矢らしさが表現されています。

 

ちなみに、島津亜矢に歌って欲しい、中島みゆきの曲が、個人的には、ほかにもあります。わたしのリクエストは2曲ですが、「わかれうた」と「ヘッドライト・テールライト」です。中島みゆきのデビュー曲でもある「アザミ嬢のララバイ」は、すでにリサイタルで披露し、DVD「島津亜矢リサイタル2007 邂逅」に収録されています。また、「アザミ嬢のララバイ」については、個別でレビューも掲載しています。

 

 

しかし、「わかれうた」と「ヘッドライト・テールライト」については、現時点(2010年12月)で、島津亜矢が歌ったとは聞いていません。今後に期待したいと思っています。

 

長くなりました。今回もまた、乱筆乱文の至りですが、ここまでお読みいただけましたら、この上ない喜びです。次回もまた、よろしくお願いします。

 

SINGER (Amazonデジタルミュージック)

曲目

01. I WILL ALWAYS LOVE YOU

02. 地上の星

03. 紅灯の海

04. 想いで遊び

05. 恋

06. 昴~すばる~

07. 見果てぬ夢

08. 監獄ロック

09. 飾りじゃないのよ涙は

10. 聖母たちのララバイ

11. 翼をください

12. 上を向いて歩こう

13. 千の風になって

14. さくら(独唱)

15. 秋桜

16. 花~すべての人の心に花を~

 

参考 : 島津亜矢レビュー

・ 「大人」のCDアルバム Singer2

・ オールマイティーな安定感 Singer3

 

 



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